アメリカは空前のFinTechブーム!新たな企業が続々登場

アメリカでは、FInTechに関連のベンチャー企業が続々と創業しています。アメリカのメディア企業CNDCは、毎年『ディスプラター50』というランキングを発表しています。これは、新しい形のビジネスを立ち上げ、従来のビジネスモデルを破壊するスタートアップ企業のことです。

ちなみにスタートアップ企業とは、新しいビジネスモデルを開発し、ごく短期間での成長と高い収益をめざす企業のことです。

この『ディスプラター50』のランキングに数年前からFInTech関連のスタートアップ企業が登場しているのです。2015年のランキングでは、50のうち、じつに10社が金融関連の企業でした。業務内容は様々で、海外送金を専門にする会社、ウェアラブル端末の健康管理システムを活用した生命保険会社、ロボットを使った投資アドバイスの会社、クレジットカードの決済など、今までにないサービスを提供する会社が目につきます。

こうした企業の中には、上場していないにもかかわらず時価総額が10億ドル(1100億円)を超える企業も存在します。このように急激に成長したベンチャー企業は『ユニコーン』と呼ばれます。ユニコーン企業でも最近ではFInTech関連の企業が名をつらねるようになってきています。

FInTechブームに沸くアメリカには、どんな企業が台頭しているのでしょうか?すでに生活に浸透してきているものを見てみましょう。

・Square(スクェア)
スマートフォンを利用した決済サービスを提供しています。スマートフォンに小型のクレジットカードリーダー(ドングルといいます)を差し込んで、クレジットカード決済ができるようにします。

一番の特徴は、初期費用が非常に安く済むことです。実はクレジットカード決済は、かなりの手間と費用がかかり、個人経営のような小規模な店にはかなりの負担になります。しかも、決済しても売り上げが実際に入金されるのは1~2カ月先になります。

しかしスクェアは簡単な事前審査を行えば、すぐ加盟店登録され、売り上げは最短で翌日入金されます。自転車操業の個人経営者には嬉しいサービスです。万が一、不正と見られる取引があれば、サービスは即時停止されます。

・Venmo(ヴェンモ)
スクェアが中小企業向けサービスだとすれば、ヴェンモは個人向けの決済サービスといえます。利用方法は、まず自分の銀行口座と、デビットカード、またはクレジットカードを登録します。フェイスブックやツイッターなどのSNSのリストを読み込んで、送金先のリストが作られます。あとは送金先の相手のアカウントに金額を指定したメッセージを送ればあっという間に送金できます。(相手も事前に口座やクレジットカードを登録しておく必要があります)

このヴェンモ、SNSを利用する若者に大ウケしています。彼らが主にヴェンモを利用する目的はパーティーやイベントの参加費用の入金です。このやり取りはSNSで確認することができます。これを見れば自分もこのイベントに参加してみたい、という気持ちになるかもしれません。

日本でも似たようなサービスをLINEが提供しています。『LINE Pay』はクレジットカード登録するか、LINE Payの口座にお金をチャージすることで利用できます。

FinTechに必要な環境・技術がすべて出揃った現代

インターネットの恩恵を受けているのは金融だけではありません。IoTという言葉を聞いたことがあるでしょうか?Internet of Thingの略で、『モノのインターネット』という意味です。訳したところでますます意味がわからない!と思いますか?

モノはわたしたちの生活に関わるすべての物をさします。家電、車、最近ではウェアラブル端末、将来的には人口知能を搭載したロボットもこの中に加わるかもしれません。とにかくありとあらゆる物がいずれはインターネットと繋がると考えられています。たとえば、スマホを使って家の外からエアコンをつけて帰るまでに部屋の中を適温にしておくということはすでにできるようになっています。

ガスコンロをつけっぱなしにしても外から消すことが可能になるのです。火事の心配を減らすことができます。冷蔵庫の在庫を管理することもできます。在庫を切らせたくないものを登録してインターネットとつないでおけば、冷蔵庫が判断してECサイトで自動的に注文してくれるのです。

家電ばかりでなく、家丸ごとをインターネットでつないで24時間人口知能が監視し、火災などの災害から家を守れるようになるかもしれません。また、車も自動運転の技術がすすみ、実用化は時間の問題です。

こうなると、火災や事故がいままでにくらべてかなり減ってくることが予想されます。そうなると、従来のような火災保険や自動車保険は要らなくなってきます。では保険会社はなくなってしまうのでしょうか?そうとも言い切れません。FinTechが発達すれば、今までとは違う形の保険が提供できるかもしれません。たとえば車で高速道路に乗っているときだけ入れる定額の車保険というものが可能になります。

じつはこれに近い保険はアメリカですでに実用化されているのです。この保険会社の主力商品はスマートフォンやデジタルカメラなどのデジタル機器を対象にした小額の保険を販売しています。保険というのはたいてい年単位で入るものですが、この保険はスマホからいつでもオン/オフが可能なのです。つまりは、長期の旅行など、破損の可能性が高いときだけオンにして、使わずに家においてあるときはオフにすることができるのです。

このような保険を『マイクロ保険』といいます。将来はデジタル機器だけでなく、あらゆるものにかけられるようになる可能性があります。このように、個人の消費行動に寄り添った保険や金融商品をFinTechは可能にできるのです。

FinTechの特長の一つに、金融商品の細分化・小額化・短期化することができるということがあります。年単位の大きな保険はやがて消えていくかもしれませんが、かわりに今まで思いもよらなかったものにかけることのできる小額・短期の保険が日本でもどんどん登場するかもしれないのです。

保険だけでなく、公共料金の支払いなどもその人の生活に合わせた、かゆいところに手がとどくような新しいサービスが出てくるかもしれません。日本ではまだ現実味がないかもしれませんが、こうしたマイクロフィンテックは確実に需要度を増してきています。

なぜFinTech注目されるようになったのか?

それにしても、なぜFinTechはここまで注目されるようになったのでしょうか?理由は様々ありますが、次の4つが主な理由として挙げられるのではないでしょうか。

1)リーマンショック
2)ミレニアル世代の台頭
3)スマートフォン、ソーシャルネットワークの発達
4)ITシステムの変化

2008年のリーマンショックは世界中に大規模な経済的打撃を与えたのは記憶に新しいところです。株価は軒並み暴落、世界中に失業者があふれました。その後の政府と金融機関の対応を見た人々が既存の金融機関に不信感を抱いたのが原因の一つと言えそうです。

投資者に莫大な損害を与えておきながら、投資会社や金融機関のトップは相変わらず法外な報酬を受け取り続けていました。ここから従来の金融機関と異なる、もっと透明性の高い企業や金融商品が求められるようになりました。

また、金融機関は多くの従業員をリストラしました。ここから、新しい金融会社w創業する人や、FinTechのベンチャー企業に参加する人が多く出ました。この人たちが今、金融業界で創造的破壊の担い手になっていると考えられます。

ミレニアル世代とは、アメリカで1980年~1990年代(2000年代初頭という説もある)に生まれた若い世代の人たちです。この人たちは、別名デジタルネイティブとも呼ばれます。もの心ついたときからインターネットに慣れ親しみ、不景気や就職難など若いうちから辛酸をなめている人も多くいるので、堅実であり、既存の価値観や権威とは距離をおいています。フェイスブックの創業者マーク・ザッカーバーグはまさにこの世代です。

また、アメリカは他民族国家であり、アメリカのこの世代は白人意外にも黒人、ヒスパニック系、アジア系など人種も多種多様で価値観の多様性に抵抗がありません。また、既存の政治や大手金融会社に不信感を抱いています。こうした人たちがFinTechブームの追い風になっていると考えられるのです。

スマートフォンの普及とともに、SNSを利用する人も爆発的に増えました。SNSはどこの学校に通っているか、どんな仕事をしているか、何を買ったか、誰とどこへ行ったかなどの個人情報が満載です。(これをライフログとよびます)ここから、個人の生活の状況を推測し、その人にあった金融サービスを提供することが可能になるのです。逆にその人にどんなリスクがあるのかも推測することもできます。

ITシステムの変化の筆頭に挙げられるのはクラウドコンピューティングでしょうか。クラウドコンピューティングとは、ネットワークを通じてサーバやアプリケーションなどを活用するITインフラです。さらにビッグデータがそこに加わります。ビッグデータは『データ量が巨大である(volume)』『高頻度である(velocity)』『多様性がある(variety)』の3つの要素を満たす必要があります。

ビッグデータの対象になるものは多種多様ですが、個人の金融行動の推察にも大きな威力を発揮します。例えば、SNSの書き込みをもとに、その人の交友関係、消費行動を分析し、どんな金融サービスを提供したらいいかを判断できるのです。

従来のネットサービスはサーバーやネットワークに莫大な費用がかかり、インフラを構築・維持する技術者を雇わなくてはいけないので人件費もかかります。しかし、クラウドコンピューティングはそれらの問題を払拭してくれたのです。

こうした技術の進歩や環境の変化、価値観の変化がFinTechの躍進を後押ししているのです。

FinTechは誰が考えたの?意外と古くから存在した概念

FinTechという言葉は、いったいいつごろから使われ始めたのでしょうか?じつは、はっきりとしたことはわからないのですが、1972年には、アメリカの雑誌で、アメリカのある銀行の頭取が『FinTechとは、ファイナンスとテクノロジーを組み合わせた造語で、銀行の専門知識とコンピュータを組み合わせること』といった内容のことを話しています。もう少し時代が進んで、1990年代に入ると、アメリカのシティバンク(当時の社名はシティコープ)の資料にFinTechという言葉がみられるそうです。

銀行をはじめとする金融業界は、かなり早い段階でITテクノロジーの導入をすすめてきました。1950年代から勘定処理のIT化が進められていきました。しかし、金融業のIT化は『金融IT』と呼ばれるのが一般的で、FinTechという言葉はほとんど使われることはありませんでした。

しかし、インターネットが普及しはじめると同時にFIntechという言葉もだんだんと一般に浸透し始めます。インターネットが発達するにつれ、ネットオークションやネット通販など、新しい形のサービスが生まれてきます。それに伴いオンライン上で決済ができるサービスがもとめられるようになりました。

こうした流れをうけて、1998年インターネット上でのクレジットカード決済サービスを提供する『PayPal』が創業されたのです。この時期はシリコンバレーでIT系スタートアップ企業が次々と誕生しています。2002年にPayPalはインターネットオークションのeBayに買収されました.PayPal創業者たちはその資金をもとにYouTubeを創業したり、フェイスブックやアリババに投資して成功を収めます。

PayPalの成功を皮切りに、その後もITを駆使した金融サービスを提供する会社が次々と創業されていきます。決済サービスだけでなく、家計簿を自動入力できるアプリを開発した会社や、銀行から融資を受けられない企業家と投資先を探している個人を結びつけるソーシャルレンディングが登場します。

アメリカはクレジットカードがないと、毎日の生活に非常に不自由をしいられます。クレジットカードを作るには、クレジットヒストリー(クレジットカードを利用した履歴)が必要になりますが、社会に出て間もない若者や移民はクレジットヒストリーがなく、カードを作るのが困難です。

そこに、SNSやECサイトでの購買履歴をもとに融資を受けつけるサービスが登場しました。インターネットの発達により既存の金融機関とはまったく違う手法を使って、融資枠からもれていた人が融資を受けられるようになったのです。これまで融資を受けていた人でも、よりよい条件で融資を受けることができるようにもなりました。

ここ数年でFInTech関連のベンチャー企業への投資金額が急増しています。2011年にはおよそ25億ドル(約2800億円)だったのが、2015年度には223億ドル(約2.5兆円)に膨れ上がっているのです。

こうした新興のFinTec企業は『破壊者(ディスラプター)』と呼ばれています。文字通り、既存の金融の仕組みを破壊してしまいかねないやり方でケタ違いの収益をあげている企業がすごい勢いで増えています。金融業は破壊すると儲かる業界なのです。

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