こうしてみると、日本でもFInTechに関連する技術は海外に比べても引けをとりません。しかし、アメリカや他の国に比べるといまひとつ出遅れている印象があります。なぜでしょうか?

一つには、日本の金融の規制に原因があります。海外のFInTech企業の収益は、融資、決済、送金、投資がメインです。しかし、いまの日本ではこれらには厳しい規制がかかっており、新興企業はなかなか参入することができません。

もう一つには、日本人が金融企業に求めるサービスが海外と違っているということもあります。まず、日本の金融業、特に振り込みや引き出しなどの末端のサービスは非常に正確で緻密です。指定の日に振込みや引き落としがされていない、身に覚えのないお金が自分の口座に振り込まれていても銀行が対処してくれない、といったトラブルは海外ではめずらしくありません。

また、お金を借りる場合でも銀行のカードローンや消費者金融、クレジットカードのキャッシングなど、何らかの方法で借りることができます。しかし、移民の多い海外は融資を受けたくても受けられない人が大勢います。また、ATMもコンビニなどあらゆる場所に設置されていて、どの銀行のカードでも引き出すことができます。

こういった行き届いたサービスは日本以外の国にはほとんどありません。こういった高い利便性が逆にFInTechの普及を妨げている可能性があります。

また、資産に対する考え方が日本とアメリカやヨーロッパでは決定的にちがいます。日本人の金融資産の内訳を見てみると、現金・預金が51.8%、債券が1.4%、投資信託が5.5%、保険・年金が29.3%、株式などが9.7%です。資産の半分以上が現金に偏っていることがわかります。

これがアメリカだと現金は13.7%、株式、投資信託が50%近くを占めています。ヨーロッパでも現金は34%と半分以下です。日本でも投資会社のオンライン化などで以前よりは株や投資信託の保有率は上がってきているようですが、それでもまだ現金第一主義の人が多数を占めます。

他にも、資産の多くを保有しているのが高齢者であるというのも、FInTechが日本で普及しない原因のひとつです。60代、70代の金融資産の保有率は全体の60%以上を占めています。
FinTechのサービスの一つに投資アドバイスがありますが、預貯金を多く保有している高齢者が投資アドバイスに耳を傾けるとは思えません。

また、FInTechのほとんどはスマートフォンの利用を前提としています。日本の高齢者はこういった新しい技術を受け入れるられる人があまりいません。スマートフォンを利用することが多い若者は充分な資産を持っていないので、FInTechの提供する金融サービスを受けられる人は限られています。

若者に金融資産が少ないのは当然ですが、いまの若者世代は不景気の影響で給料のいい正社員の仕事につくことが出来ない人が大勢います。派遣や日雇いなど、不安定で収入の低い仕事にしかつけないので、投資にまわすほど充分な資産を作ることができない人が多いのです。

また、支払いも日本はカードやローンより現金一括払いがまだまだ主流です。SuicaやPasmoなど一部の決済手段を覗いてはFInTechの提供する決済サービスも普及しにくい環境といえます。日本ではアメリカ式のFinTechは通用しにくい環境といえます。